TRNSYSの助走計算

前回の日付時刻の話にも関連しますが、計算を行う際には助走計算(助走期間、予備計算)が必要です。
助走というと、陸上なんかの助走をイメージしてしまって、コンピューターで計算するのになぜ助走?ですが、そこにはそれなりの事情があるのです。

鶏が先か卵が先か

TRNSYSでは(というかシミュレーション全般では)何らかの条件を設定して計算を行います。建物であれば壁や窓の構成、内部発熱、建設地の気象条件などさまざまな条件を設定します。それらを元に計算の結果として室内の室温や湿度などの値が出力されます。ところが条件の一つとして、計算を始める時点の室温や湿度も必要になります。これから室温や湿度を計算したいのに、その値を条件として指定するのも変な話に聞こえます。でも何か値が無いと次の時刻の室温が計算できないのです。これは計算の開始時点では不明なので、初期値として任意の室温、湿度を条件として設定します。TRNBuildの初期値では室温20℃として計算を行います。(変更することも可能です)

助走計算

計算を進めると気象条件など、その他の条件の影響で初期値から徐々に正しい値に近づいていきます。逆に言うと計算開始直後の室温は初期値の影響を受けます。図は初期値から2/1~2/28を計算した室温のグラフです。計算開始から数日間は室温が初期値の20℃から下がり続ける傾向が見て取れます。(自然室温/暖冷房なし)

計算開始直後の室温変動
計算開始直後の室温変動

真冬の時期なので自然室温で20℃付近というのはかなり怪しい結果です。初期値の影響が大きく出ている事が分かります。

比較のため、このグラフに1月から計算を開始した2月の結果、つまり助走計算を1ヶ月取った結果と重ね合わせると。。。

助走1ヶ月の室温変動と比較
助走1ヶ月の室温変動と比較

一目瞭然ですが、2/1~の室温(初期値の20℃)が大幅に違っているのが分かります。計算が進むにつれて徐々に同じ室温に近づいていきます。計算開始から1ヶ月後(2月末)になってようやく計算結果が同じになります。

このように計算開始直後は初期値の影響を大きく受けるので、適切な助走期間を見込む必要があります。建物の形状や規模、仕様などによっても影響するので、そのあたりは調整が必要です。

初期値の影響は熱容量の大きな建物では、より長く残る傾向がでます。RC造のように熱容量の大きい建物では助走期間を長く、逆に木造のように熱容量が少ない建物では助走期間は短めになります。一般的には2週間から1ヶ月の助走計算を取ります。

なお、長めに助走計算を行っても問題ありませんので、心配な場合は長めに取るようにします。(その分、計算時間は長くなります。繰り返し何度も計算する場合は、慎重に決めて下さい)

1月のための助走はどうする?

この話の流れで考えると、年間暖冷房負荷など、1月を含む計算では、1月は常に初期値の影響を受ける事になります。まあ、やってみると実際そうなります。それでは困るので、図のように1ヶ月分を助走として12/1(8016h)から計算を開始、翌年の12/31、つまり17520h(=8760h x 2)までを計算します。(都合13ヶ月の計算をします)

助走期間
助走期間

Settingsでは図のように設定します。(TRNSYS18)

Simulation Start/Stop time を設定

TRNSYS17を使用している場合は、Control Cardsの設定は図のようになります。

Control Cardsの設定
Control Cardsの設定

繰り返しになりますが、最初の1ヶ月(12月分)は初期値の影響を受ける助走期間です。その部分は忘れずに無視して、それ以降の計算結果(翌年の1月~12月末)を採用すればオッケーです。

しかし、なんというか、改めてグラフにすると助走期間のあり/なしの差が大きくて驚きました。助走期間は、やっぱり少なくとも1ヶ月ぐらいは取るのが良さそうです。

2018/2/2 追記

壁の材料の物性値を確認してみたら、レンガ175mm、断熱材(ロックウール?)167mmの外断熱でした。室内側の蓄熱がかなり影響しています。一般的な戸建(木造住宅)であれば、ここまで影響は残らないはずです。

動作環境

以下の環境で動作を確認しています。
Windows10 Pro(64bit)
TRNSYS17.02.0005

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